日本旅行の徹底した不支給処分には徹底した審査請求で闘いを挑み柔整師施術の正当性を保険者に理解させる取り組みを行う


日本旅行健保組合の不支給処分が止まらないが、私がご相談を受けた不支給事件は徹底的に全件審査請求するよ。当たり前だろう。今週も2件審査請求書を関東信越厚生局宛て提出した。一人の代理人では異常な件数とのご指摘を当局から受けたので、近年は私の秘書であるK女史をも審査請求代理人に立てて対応している。

十数年前に厚生省保険局で都道府県の社会保険審査官に仕事を教えていた私だが、今は社会保険審査官のご判断を求める立場に変容してしまった。しかし、このことは私の仕事が劣化後退したのではなく、置かれている立場が相違しているからであって何らの問題もない。私は常に“上から目線”で社会保険審査官には対応して参りたい。

※今回審査請求を行った事件を参考までにその要旨のみを掲載しておく。

1 原処分の判断及びその誤り

本件は、日本旅行健康保険組合(以下、「健保組合」という。)の被保険者である組合員 が、柔道整復施術という治療行為について、身体に具体的に発生している挫傷の治療にあたって、柔道整復師の施術を受け、その費用の支払いにつき柔道整復施術療養費の支給申請を行ったところ、保険者である健保組合が被保険者である請求人に対し、柔道整復師にかかる療養費の不支給決定通知書を発出し、その理由が「急性又は亜急性の外傷性の負傷でないと判断したため。」とあるが、このようなあまりにも抽象的な言い回しによる訳の分からない理由により、申請対象のすべてを療養費の支給対象と認定することなく、不支給決定処分と連絡してきたものである。被保険者は不支給決定処分とされた理由に納得ができないことから、異議申し立てとしての審査請求を行うものである。審査請求人の代理人に上田が選任されたので、審査請求代理人として私、上田たかゆきが責任をもって論述書を作成することとした。

不支給決定通知書には被保険者に負傷原因等の照会を行い、その回答を受けたことが記載され、患者である請求人が負傷の時間と負傷原因の態様の具体的な状況説明について、どのように負傷したのかを言明したところである。その内容を健保組合は療養費不支給決定通知書にそのまま掲載しているにもかかわらず、これらの外傷性の負傷を認定せずに、不支給決定通知書の最下部あたりに、「外傷とは、何らかの物理的外力が偶然作用して生じた生体の損傷で・・・(以下、省略)」などと、医科学的な一般論の定義を引用し、結果としては「外傷性の定義によって身体の組織が損傷を受けた状態であるとは認めがたい」と判断したから、急性又は亜急性の負傷ではないと判断し、不支給と決定したとある。

施術者は請求人の負傷の状況を確認し、実際に治療行為をし、その事実確認については請求人との弁明説明上も一致していて何らの齟齬も生じていないにもかかわらず、患者の負傷状況を何一つ確認していない健保組合が「損傷を受けた状態であるとは認めがたい」などと、意味不明な論調をして不支給処分をしたことは、不支給の理由がないので不当・失当であることを請求人及び審査請求代理人は強く主張する。

その2ページ目に「よって、右足で強く踏ん張った際に右膝を内側に強く捻り、右太ももの内側の筋肉を強く伸ばした状態においては、外傷性の定義によって身体の組織が損傷を受けた状態であるとは認めがたいと判断します。」とあるが、そもそもその外傷性の判断自体を健保組合が誤っているのだからこの点は正確さにかける表現である。厚生労働省の支給基準を正しく理解していないのは健保組合の方である。健保組合が認定する「急性又は亜急性の外傷性の負傷」とは何なのかを審査請求人に明示するのが先であろうが、未だに健保組合からは何らの解説もなく、ただいたずらに同じ不支給処分を繰り返すのみである。このようなことは、保険者業務を怠り、不支給決定処分を行うことは理由がない処分と認定される。 

健保組合はこのような表現をすると「結局、厚生労働省という国が定めたものだから」と反論することが被保険者側にとってはきわめて困難になるだろうという愚かな戦略に過ぎない。ちなみに以前にもこのような表現を以て不支給決定され、当方が審査請求代理人となって請求した案件でも、関東信越厚生局社会保障審査官の審理により不支給処分が取り消されたばかりであるにもかかわらず、相も変わらず愚かな不支給処分を繰り返しているのである。審査請求代理人は請求人が望むのであれば、今後裁判闘争も視野に入れているが、もちろん社会保険審査会の審理を経なければならないのは了知しているところ。

では、健保組合にお聞きするが、厚生労働省保険局医療課長通知にある「急性又は亜急性の負傷」とは具体的にどういうものであると健保組合は認識して定義しているのかの釈明をここでは敢えて求めるものである。

健保組合が不支給決定通知書に記載された「外傷とは・・・」と「急性又は亜急性の外傷性の負傷」とが、なぜ同一の定義なのかを明らかにされたい。その論拠の構成要件を明示したうえでの釈明を求める。

患者が柔道整復施術を受けた場合、当該柔整施術は健康保険法第87条において「療養費」として現金給付の対象となっている。療養費の支給申請にあたっては、療養費支給申請書に健康保険法施行規則第66条にある事項を明記する以外に、厚生労働省保険局長及び同局医療課長の発出する運用通知により、受領委任の取扱いが個別の「契約」として認められており、現金給付ではあるものの、実際は施術者である柔道整復師が療養費の受取人となっている。

これらの運用上の取扱いを受け、現在の運用は平成9417日付保険発第57号厚生省保険局医療課長より発出された「柔道整復師の施術に係る算定基準の実施上の留意事項」最終改正平成25424日付保医発04241号(以下、「留意事項」という。)により、療養費の支給事務に関する取扱いの詳細が整理され、事実この厚生労働省保険局医療課長通知により、各保険者が全国一律の療養費支給決定事務を実施しているところである。

留意事項の第1 通則 5により、「療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。なお、急性又は亜急性の介達外力による筋、腱の断裂(いわゆる肉離れをいい、挫傷を伴う場合もある。)については打撲の料金により算定して差し支えないこと。」6により、「単なる肩こり、筋肉疲労に対する施術は、療養費の支給対象外であること。」さらに、7により、「柔道整復の治療を完了して単にあんま(指圧及びマッサージを含む。)のみの治療を必要とする患者に対する施術は支給対象としないこと。」と、療養費の支給対象について記載されている。通知で示された当該留意事項は、厚生労働省保険局医療課長という療養費の取扱いについては全国の保険者に取扱いに係る運用上の統一見解としての留意事項を明らかにするとともに、療養費の事務取扱の適正化及び全国的な統一化を周知・徹底させることを目的とする行政庁からの通知であることから、この課長通知で指し示された柔道整復施術療養費の支給対象として、本件負傷が認められるかどうかが争いの論点であることは言うまでもない。

請求人は療養費の算定基準に照らし合わせた場合には、当該柔道整復施術としての治療行為が当然保険で施術を受けられるものであるのを、健保組合が保険対象と認めなかったことに対し、施術費用の全額を自費扱いということで個人的に負担することには了解できないということである。すなわち、保険取扱いが認められなければ、施術に要した費用のうち、一部負担金として既に支払い済みの額を除いた額である療養費支給相当額を請求人が別途、柔道整復師あて自費扱いにて、別途支払いをしなければならず、請求人において金銭的な損失が発生するからである(平成25年4月24日付保発04242号 別添2 厚生労働省保険局長通知の受領委任の取扱規程第6章32)。

請求人は自らが患者として柔道整復師の施術として実際に治療を受けた負傷が、療養費の保険対象であることを主張して、あくまで健保組合が不支給決定した原処分の判断が、国である厚生労働省保険局の運用通知である留意事項の解釈、適用を誤ったものであることが明らかであり、原処分の破棄を免れないことを当方代理人に対し強く主張することから、原処分の不支給決定処分の取消しと、併せて、当然のことながら一日も早く、可及的速やかに療養費が支給決定されることを求めて、健保組合の主たる事務所を所管する関東信越厚生局社会保険審査官に審査請求書を提出するものである。

 以下、詳述する。

第2 不支給になっても治療費の残額を支払う必要がないとはどういうことか

 健保組合は不支給決定通知書の2枚目中段に「※受療時に、負傷時の状況について前述のとおり説明したとありますので、不支給決定額分につきましては、貴方から支払の必要はないものと考えます。」と明記されている。これは重大なる愚策であり、審査請求代理人は声を大にして反論するとともに、このような暴言をけっして許さない。なぜこのような記述を不支給決定通知書に記載したのかの釈明を求める。

 先にも説明したとおり、保険給付の適用外と保険者が判断したならば、施術所の窓口で支払い済みである施術料金の3割に相当する一部負担金以外の残額である療養費支給相当額について、残金請求権を柔道整復師は有している。健保組合等の保険者がその後、療養費を支給することによって、柔道整復師においてこの残金請求権(7割相当額)と保険者から支給された被保険者に返還すべき返還金債務(7割相当額)を対等額で相殺するのが受領委任の取扱いである。このことから、仮に保険者が療養費を不支給決定した場合には、施術者は7割分の施術費を受け取れないことから、当然被保険者又は患者に対し、残金を「自費」で請求することになる。にもかかわらず、健保組合は「残金は支払う必要がない」などと被保険者に通知しているのは、健康保険における一部負担金のルールを完全無視した指導であり認められない。

本件の取扱いを医科・歯科・薬価・調剤の診療報酬に置き換えれば、これらの指導が誤りであることが単純に理解される。

 つまるところ、関東信越厚生局で行われた口頭審理の席上で健保組合は否定していたが、当該健保組合は柔道整復師の行う施術を治療行為とは認めないということなのだろう。その様な考えを以て「これは捻挫ではない」などと不支給決定通知書の不支給理由に掲載するとは不当・失当である。

第3 本件不支給額を“施術者に支払う必要なし”とするのは単に審査請求逃れであること

 健保組合が上記第2で説明した事務処理を行う理由は、被保険者が審査請求

を行わないように仕向ける方便であると推察される。不支給処分を行ったなら、通例の事務処理であれば、保険局医療課長通知で示された受領委任の取扱規程第6章療養費の支払い2のなお書きにより、保険者は施術費用の残額を施術者である柔道整復師に支払うように指導することを規定しているが、これを健保組合は完全に無視して、「貴方から支払いの必要はない」とするのは、施術者が患者さんに費用を請求した場合に、被保険者は「健康保険証を提示して保険診療を希望したのに、なぜ自費で支払わなければならないのか?」の疑念に対して、当然施術者は「それでは納得できないということであれば審査請求を行うことが健康保険法上認められている」と説明するのだから、これを受けての被保険者からの審査請求をされては業務処理が煩雑になって業務量が増大することを避けたいがための卑怯な論調をあえて不支給決定処分の通知書面に記載しているという愚かさであると断言する。このような健保組合には徹底的に抗戦するし、社会保険審査官が本事件を棄却したとしても社会保険審査会において健保組合の非常識を論じてまいりたいし、その後の裁判闘争にも十分な論理構成をもって進捗してまいりたい。審査請求代理人は柔道整復施術を誤解して「柔整師などくだらない不正請求の犯罪者集団であって、ろくな治療もできないくせに、部位を転がして負傷もしていないものを慰安行為で医療保険給付をし続ける不届き者」との認識を有する健保組合に対して徹底的に論陣を展開する。このことがまさに請求人が意図し期待するところであるからだ。柔道整復師の行う治療行為としての施術は健康保険で給付されるべきであり、これを否定し保険給付から除外しようとする取り組みを行う健保組合には徹底的にその姿勢を糺すこととしている。

第4 健保組合の不当・失当は明白であり不支給理由に矛盾があること

 健保組合の不支給理由に係る主張は未だによくわからないが、不支給通知書面に記載されている不支給理由だけでは理解できない。

 恐らくは、健保組合の基本的発想は柔道整復師の施術を完全否定したうえで、「外傷でもない。人はそんなに負傷しない。これは単に疲労回復やトレーニングや健康増進の一環として整骨院に通院しているのであって、そんなくだらないことに保険給付などけっして行わない」との強い「柔整師バッシング」を基本理念とした原処分であることが認められる。

このことに対しては審査請求人及び審査請求代理人はすべからく反論する。上記健保組合の論調に対する請求人の反論としては、

負傷にあたっては、過去にも施術者が繰り返し健保組合に説明している通り急性の負傷原因から明らかに外傷性と判断できるにもかかわらず、負傷と治癒を繰り返しているということだけで外傷性と判断できないという健保組合の言い分は、施術者の意見も無視し、一方的に“全額不支給”としたことは明らかな不当性があること。さらに、健保組合はそもそも整骨院に通うのか医科受診をするのかという、被保険者の裁量であることについて提示を求めているが、これは全くもって必要のないことである。

医科受診等の指導については、柔道整復師の業の範囲を超えた症状などは施術者として必要に応じて、提携先の医療機関に検査及び治療をお願いし、患者様にもそのような指導を行っており、本件に関しては、我々柔道整復師の治療範囲内での外傷(挫傷と捻挫)との判断を施術者として下したものであって、特段、医科受診を軽視した覚えはないこと。

 

第5 健保組合の独自主張に対する審査請求人側における反論

一般的に、柔道整復師はまず、施術所窓口において患者が保険施術を希望すれば被保険者証により保険給付を受けられるかどうかの確認を行う。その後、患者の主訴等により必要な検査などを行った上で、柔道整復施術のうち柔道整復師の判断として健康保険の給付として適用が認められる捻挫の症候及び症状が患者に認められるかを判断する。特に、保険給付が認められる亜急性の外傷性の疾患の判断については、明確な負傷の発生機序が認められないことが多いことから、捻挫を例に挙げると、捻挫の症候としての発赤・疼痛・腫脹・熱感・機能障害の有無の確認を経て、柔道整復師が捻挫と判断したものについては、当然ながら保険取扱いとして、国の通知に基づく受領委任の取扱いを行っているところである。

柔道整復師は患者を実際に観察して、その患者の症状の変化や関節・靭帯・筋肉等を構成する軟部組織の損傷をも含めて、悪化していないかどうか、微細な部分での炎症の有無、発症状況を確認しているところであり、結果としてその捻挫症候が治癒し、しかしながら再度痛みが現出するなどの繰り返しを訴えることが患者の主訴として非常に多いことから、施術者としての見立ての判断により施術を行うものである。

結果として、療養費支給申請書上において、長期にわたり再発や症状の悪化を頻繁に繰り返すことは日常の施術の現場においては認められるところである。毎年毎月欠かさずに施術をされる場合もあり、新規負傷と治癒を繰り返すこともある。療養の給付では認められる投薬や外科手術、最新式の医科学的機器の使用が認められていない柔道整復師として、施術者は自身の経験と判断により、患者の疼痛や腫脹等が緩解されれば治癒として、また、痛みや機能障害の主訴があれば新規の負傷として療養費を申請するのは、柔道整復施術療養費の受領委任の取扱いがそのように組まれているからである。

現状においては柔道整復師に対し、行政及び保険者が本来の業務である柔道整復施術を行うに当たっての捻挫の「急性及び亜急性の外傷」にかかる当然に認められるべき「診断権」を認めないことから、負傷の発生機序及び治癒の見込み等を事前に予測することも、それを明らかにすることも柔道整復師には義務として課せられてはいない。負傷の発生機序を柔道整復師が保険者に対し明確に説明したり、解説する義務はないのである。

患者が訴える症状が何度も再発症したうえで、治癒を繰り返すことは、患者の症状がまさにそうであるだけであって、特に疼痛の訴えにおいてはこれが顕著である。請求人の治療にあたった施術者は、日常生活の中で負傷が繰り返されることは請求人を含めた「患者」としての訴えであり、その症状を確認し施術を行った結果としての保険請求を行ったものであって、何ら不自然ではない。

保険請求が月単位であることに起因するかも知れないが、請求人たる患者の痛み等の訴えに対し、柔道整復師が個々に判断を行って申請書を提出しており、柔道整復師は、患者の疼痛を主体とした症状がとり切れないとか、毎日毎日の懸命なる施術の結果において頻回施術の実施となっても、当然ながら日々の施術効果は有効・有益であると判断しているうえ、必要に応じて治療方法を変えている。だからこそ毎回患者が希望して来院するのである。

総合的に、柔道整復師の治療の主体はどのような観点かに着目すれば、柔道整復施術は外傷性と思われる異常部位の症状に対するもの、即ち疼痛の除去や消炎鎮痛、機能障害の緩和、発赤や腫脹及び熱感に対する適切な処置にその主体が存するのであり、患者に対する治療対策を施術という形で具現化している治療家であって、“悪いところや痛いところ苦しいところを取り去る”ことを国の免許を得て堂々と行っているものである。これらもまた立派な医療であるのであって、けっして「医業類似行為」ではない。

第6 審査請求人本人による主張の正当性について

学術的な知識がない患者である被保険者と、国家資格を持つ施術者との説明の仕方が若干違うというのは何らおかしなことではない。これが保険給付の不支給決定処分の要件を構成するものにはならない。そういう意味で健保組合は不支給処分を構成する要件をはき違えている。

第7 国の通知による支給対象の趣旨

 健保組合の原処分は、「柔道整復施術が保険適用となる、急性又は亜急性の外傷性の負傷とは考えられない」と判断し、療養費の支給基準上、支給対象外であることから不支給処分とされている。既出の第2でも申し述べたし、また、関東信越厚生局で行われた口頭審理の席上でも発言させていただいたが、不支給理由の構成にあたって、痛みや違和=外傷性のケガとは言い切れないなどとあるが、厚労省の課長通知では先にも触れたように「急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。なお、急性又は亜急性の介達外力による筋、腱の断裂(いわゆる肉離れをいい、挫傷を伴う場合もある。)については打撲の料金により算定して差し支えないこと」とされているものである。ここで示されていることを簡単にまとめると、柔道整復師の施術科目は「骨折・脱臼・捻挫・打撲・筋挫傷」の5項目である。 

これらはすべて“外傷の治療”であることは言うまでもないが、「柔道整復の業の範囲内で治療を行えると施術者が判断したうえで施術を行い、治癒しているということは健保組合が類推されるものとみなされる」ということはすなわち「柔道整復の業である“外傷の治療”を行ったということを健保組合が結果的に類推されるものとみなされる」ということである。

しかしながら、なぜか不思議にも健保組合は「急性又は亜急性の外傷性の負傷でないと判断せざるを得ない」と不支給決定をしている。これは明らかに矛盾であり、健保組合が何を以て「外傷とは言い切れないので不支給」としたのか。少なくとも外傷とは言い切れないからという低レベルの疑念あるいは憶測をもって不支給処分とされては困るのである、不支給処分にするには、明確な不支給理由を明らかにした上で、「・・・よって外傷性の負傷とはけっして認められないことを確認したので支給申請を不支給処分とする」というのが通例であり、今回の事件は余りにも稚拙な処分であることは論を俟たない。

第8 原処分庁が柔道整復師に抱くのは「捻挫とは認められない」ということだと推察されることについて

これまで見てきたとおり、つまるところは審査請求人に繰り返される日本旅行健康保険組合が行う不支給処分は、当該健保組合が確信的に、柔道整復師の請求が「負傷名が捻挫とあるが、実際は捻挫とは認められない」ということを述べているものと推察される。このことは、繰り返すが平成29年7月20日に行われた口頭審理による意見陳述の席上、原処分庁側から「頚椎捻挫とはどのようなものか」との疑義の発言からも明らかである。そもそも人間はそんなに捻挫もしないし打撲もしないのだから、限りなく外傷性とは認められないから不支給処分が相当だと申し述べたいのだろうが、そうだとすれば、柔道整復師の見立てで行い、年間約4,000億円近い療養費請求の大半が支給できないものであるということを公言しているものと認められる。

それでは、柔道整復師が行っている施術が“捻挫に対するものではない”ということを、別途健保組合側において明確に立証してほしい。「・・・は通常考えられない」とか、「常識的にはあり得ない」などと抽象的な言い回しではなく、外傷性の負傷ではないとなぜ判断したのかを立証してほしいのである。本件はすべて明らかな負傷原因があり、自家筋力による損傷かどうかも含め、柔道整復師が捻挫と判断して施術を行ったものを全額不支給処分にするには、あくまで「医科学的な反論と説明」がなければ請求人が納得できないのは当然のことである。

健保組合は、不支給処分すれば柔道整復師が困窮すると思っているかも知れないが、療養費はあくまで被保険者に帰属するものであり、不支給になれば施術者は被保険者に治療費の残額を請求するだけである。結果として、不支給処分の不利益はすべて被保険者の負担となるのは明らかだ。健保組合の主張から類推できるのは、不支給にすれば柔道整復師だけが困ると思っているようだが、困るのは毎月高額な健康保険料を給与から源泉徴収されている「社員」である被保険者である。このことを健保組合ははき違えている。何度も繰り返すが、患者は明らかな負傷原因を明確に述べているのであり、これを採用しない又は信用できないとする保険者の主張にはまったく理由がない。

そもそも単一健保であるにもかかわらず、なぜ審査請求がこれほどまでに発生するのかは、保険者としての説明責任が何らもなされていないということの証左であると審査請求代理人は考える。

第9 療養費を支払うも支払わないも「保険者の裁量の範囲」という抽象的概念は認められない

最近の傾向として、国である厚生労働省保険局医療課は保険者からの質問に対し明確な回答を特段せず、また、健保組合を指導する立場にある同局保険課においても、療養費の取扱いの具体的解釈は保険局医療課案件として、これまた明言を避ける傾向にある。そうすると、何らの業界側からの質問に対する回答も得られずに、保険者である健保組合は健保法87条の条文解釈上「保険者判断」とか、今流行りの「保険者の合理的裁量による認定」、「保険者の合理的裁量の範囲内」あるいは「保険者に委ねられた合理的裁量の範囲」の見地から、すべて保険者の言いなりになってしまうことが慣例となっている。

最近の社会保険審査会の療養費に関する裁決事例集を見ても、これら「保険者による合理的裁量」が得意文句のように頻繁に記載されているような愚かさではあるが、これは単に責任逃れの弁明であって、審査や調査を含め、審理が十分になされていないことを弁明する論調に過ぎない。

 原処分庁が、「不支給分の支払が不要である」などと馬鹿げたことを公言する始末であることは既出で述べたとおりであるが、原処分庁が激しい柔整療養費バッシングを繰り返し、不支給決定を乱発している実態を憂慮する。許せないのは、不支給決定分の費用につき“あなたは整骨院に不支給額を支払う必要はない”などと、柔道整復師に「タダ働き」を強要していることである。このような暴言を不支給決定通知書で堂々と書面にすることなどあってはならない。

原処分庁の不支給決定通知書には、療養費の不支給決定分の費用につきましては、被保険者から支払の必要はないものと考える」などと被保険者宛てに発出している。不支給になっても治療費の残額を支払う必要がないとはどういうことなのかを社会保険審査会には釈明を求める。

 繰り返して申し述べるが、原処分庁は不支給決定通知書の2枚目中段に「※受療時に、負傷時の状況について前述のとおり説明したとありますので、不支給決定額分につきましては、貴方から支払の必要はないものと考えます。」と明記されている。これは重大なる愚策であり、このような暴言を審査請求人及び審査請求代理人は許さない。なぜこのような記述を不支給決定通知書に記載したのかは、恐らくは審査請求を組合員にさせないための「審査請求逃れ」という姑息な手段をとっていると思われる。保険給付の適用外と保険者が判断したならば、施術所の窓口で支払い済みである施術料金の3割に相当する一部負担金以外の残額である療養費支給相当額について、残金請求権を柔道整復師は有している。健保組合がその後、療養費を支給することによって、柔道整復師においてこの残金請求権(7割相当額)と保険者から支給された被保険者に返還すべき返還金債務(7割相当額)を対等額で相殺するのが受領委任の取扱いである。 

このことから、仮に保険者が療養費を不支給決定した場合には、施術者は7割分の施術費を受け取れないことから、当然被保険者又は患者に対し、残金を「自費」で請求することになる。にもかかわらず、原処分庁は「残金は支払う必要がない」などと被保険者に通知しているのは、健康保険における一部負担金のルールを理解せず、完全無視した指導であり認められない。

本件の取扱いを医科・歯科・薬価・調剤の診療報酬に置き換えれば、これらの指導が明らかに誤りであることが単純に理解できる。不支給額を“施術者に支払う必要なし”とするのは単に審査請求逃れであることは明らかである。原処分庁である健保組合が「残金を支払う必要なし」と“ことさら申し述べる”のは、被保険者が審査請求を行わないように仕向ける方便であると推察される。 

不支給処分を行ったならば通例の事務処理であれば、保険局医療課長通知で示された受領委任の取扱規程第6章 療養費の支払い33のなお書きにより、保険者は施術費用の残額を施術者である柔道整復師に支払うように指導することを規定しているが、これを原処分庁は完全に無視して、「貴方から支払いの必要はない」とするのは、施術者が患者さんに費用を請求した場合に、被保険者は「健康保険証を提示して保険診療を希望したのに、なぜ自費で支払わなければならないのか?」の疑念に対して、当然施術者は「それでは納得できないということであれば審査請求を行うことが健康保険法上認められている」と説明するのだから、これを受けての被保険者からの審査請求をされては業務処理が煩雑になって業務量が増大することを避けたいがための卑怯な論調をあえて不支給決定処分の通知書面に記載しているという愚かさであると断言する。このような健保組合の実務処理は認められない。

「柔整師などくだらない不正請求の犯罪者集団であって、ろくな治療もできないくせに、部位を転がして負傷もしていないものを、慰安行為で医療保険給付としての療養費を食いものにする不届き者」との認識を有する一部の過激な健保組合の動向と本件は発想を一にするものであろうと推察される。

柔道整復師の行う治療行為としての施術は健康保険で給付されるべきであり、これを否定し保険給付から除外しようとする取り組みを行う健保組合には徹底的にその姿勢を糺す必要性があるものと考える。

10 9月4日付厚労省保険局発出の一部改正通知に見る当方主張の正当性

 厚生労働省保険局長及び同局医療課長から平成29年9月4日付で通知された柔整療養費に関する一部改正4通知を十分理解したうえで当審査請求の趣旨及び理由書面を作成しているのだが、今般の柔道整復師の施術に係る療養費についての一部改正についての通知内容中、保険者に対して、調査の結果不支給にするのなら、患者にも不支給決定通知を出して適正な不支給処理をするよう求めているではないか。併せて、患者が施術者に施術料金を支払う必要がある場合は、保険者等は、適宜、当該患者に対して指導を行うことを再度強調して通知されていることを、原処分庁は何らも理解していない。反論があるのであれば、単に不支給処分を繰り返すのではなく、当方の主張に対し明快な釈明をすべきである。

11 結 語

以上のとおりであるから、健保組合の不支給決定という原処分には柔道整復施術療養費の支給対象としての運用上の判断に明らかに誤りがあるものと認められ、本件の不支給とされた原処分は妥当性を欠くものである。

健保組合は、療養費の支給にあたって疑義等のある場合は被保険者に対して事実確認・調査を行うことができることから、本件においても患者に対してはこれを実施した。しかしながら、被保険者が不服を申し立てるほど、まったくもって「的を得ていない」確認作業であったとすれば、調査方策自体が稚拙であった疑いがある。このような中で、審査請求があった平成29年7月分の療養費を不支給決定としたことは、適正な判断が行われたとは到底言えない。

なお、本件は、発生機序が明らかな急性期における外傷性の負傷であることが明らかであることから、そもそも外傷を疑うべき余地は全くないにもかかわらず、このような全額不支給決定したことは保険者として客観的判断を行わず、そもそも柔道整復療養費は不正請求ばかりで信用できないからという、きわめて「恣意的な判断」であったと考えられる。前回の口頭審理ではこの点につき保険者側から「そのようなことはない」と否定されたが、審査請求代理人は疑念を持っている。だからこそ、今後も徹底的に大量に不支給処分とするならば、その全件について被保険者が不支給処分に納得できないのであれば、審査請求となろう。

よって、本件の不支給決定については、そもそも健保組合による裁量権の濫用と判断せざるを得ない。

すなわち、厚生労働省からの運用通知解釈上明らかに不当・失当である。また、柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準や具体的に柔道整復施術の受領委任の取扱いの対象を明記した厚生労働省保険局医療課長通知による留意事項の運用上の解釈にも、当該健保組合の運用は齟齬・欠陥があるものと言わざるを得ない。

健康保険法第87条及び健康保険法施行規則第66条に定めのある療養費の規定上において、併せて、厚生労働省保険局長及び同局医療課長が柔道整復施術療養費の運用上の取扱いとして通知した関係諸通知の取扱いに鑑みた場合、当然のことながら当該療養費は支給される要件をすべて満たしているものと解するべきである。

したがって、原処分は破棄を免れず、審査請求人の請求は認容されなければならない。そして当然のことながら、当該柔道整復施術療養費は可及的速やかに支給決定されなければならない。 

                     審 査 請 求 代 理 人  

              上 田 孝 之



by ueda-takayuki | 2017-11-16 12:56

上田たかゆきオフィシャルブログ


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