日本ガイシ健保組合の患者照会書面はことごとく医師の診断を要する記載になっていることに反論した

当方会員宛てに日本ガイシ健康保険組合が不支給決定通知書を送付した。この書面に添付されていた「柔道整復の保険給付対象となる外傷について」と題された書面記載内容について納得できないことから、疑義照会文書を作成し文書による回答を求めた。疑義照会文書を参考までに掲載する。

「柔道整復の保険給付対象となる外傷について」と
題された書面記載内容について(疑義照会)

 柔道整復施術療養費の取扱いにあたりましては、常日頃よりご尽力賜りまして御礼申し上げます。
 さて、この度、当方会員が貴健保組合より、柔道整復施術療養費の不支給決定通知書による不支給処分のご連絡を受けた際に、これに同封されていた標記書面の記述内容について、当方といたしましてはその一部に疑義が生じていることから、下記のとおり書面をもって疑義照会いたします。
当該書面は当方の基本的考え方を整理して申し述べるものであり、貴健保組合からの書面による弁明及び反論に係るご回答を是非ともよろしくお願い申し上げます。
               


1 療養費の支給対象について
 貴健保組合のご主張は柔道整復施術で保険対象となるのは、「医師の診断を待つまでもない、疑いようのない、誰が見ても明らかな外傷のみ」、「医師の診断なしでは保険給付対象外」、「柔道整復師には診断は認められていない」、「痛みの原因が明らかでない場合は医師による診断が必要」などと全面的に柔道整復師の施術を否定する立場を踏襲しているものと推察されます。
しかしながら、柔道整復師は捻挫等の急性又は亜急性の外傷性の負傷を施術することが許された国家資格者であります。にもかかわらず、医師の診断なしでは保険給付対象にならないことをことさら強調しておられます。
このことに係る医科学的又は法令・通知上の論拠の説明を求めます。

2 厚生労働省保険局医療課長通知により亜急性負傷が保険適用となることが明記されていることについて
 当方が推察するに、おそらくは貴健保組合としては「柔道整復施術が保険適用となる、急性又は亜急性の外傷性の捻挫や挫傷などとは考えられない」と判断し、療養費の支給基準上、支給対象外であるとされているのでしょう。国が通知で示した「亜急性の外傷性の捻挫」というものは、「急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。なお、急性又は亜急性の介達外力による筋、腱の断裂(いわゆる肉離れをいい、挫傷を伴う場合もある。)については打撲の料金により算定して差し支えないこと。」とされているものであります。それではここで「亜急性の外傷性」について述べることにより、貴健保組合の基本的な判断の誤りを指摘いたします。
①亜急性の外傷性について
厚生労働省保険局医療課長通知で示された課長通知上で、「亜」というのは「準ずる」という意味であるから、亜急性とは急性に準ずるということです。すなわち急性と慢性の中間に位置する状態のことをいい、急性よりも熱などの変化が緩やかなものをいうのです。整形外科理論では急性期が受傷直後から2日間程度までを指すのに対し、亜急性期とは受傷してから2~3週間程度の時間が経過したものであり、陳旧性とまではいえないところを言います。つまり「時間の経過」として捉えるということです。急性期、慢性期、亜急性期とそれぞれに「期」とあるところ当然そういう見方となるのです。これに比し、柔道整復では“反復性・継続性・蓄積性”の外的圧力要因や微小の外力、また、これらの外力にかかるストレスによる組織断裂や骨棘形成、石灰沈着、また、陳旧例では関節の不安定性があるものまでを含んで考えています(社団法人全国柔道整復学校協会監修の柔道整復学理論編改訂第4版244ページ 亜急性損傷)。例を挙げると、主婦の家事手伝いで痛めた手関節や布団の上げ下ろしで負担のかかった腰部に発生した事象についても、療養費の支給対象になると判断するのが柔整理論における広く認知された亜急性負傷です。一方、ある程度の時間の経過をもって、例えば10日ほど前に躓いて階段から落ちた場合の負傷を亜急性だというのが整形外科の定義であると思われます。
現在の療養費の算定基準における留意事項にも柔道整復施術療養費における亜急性の定義がまったくなされていないのが問題です。これは行政の職務怠慢でありますが、所詮は素人集団の厚生労働省の事務方であれば致し方ないところであります。しかしながら、仮に、亜急性の定義が単なる時間経過の概念だけで定められたならば、柔道整復師の保険請求のかなりの部分が保険対象外とされる可能性があり、既出の反復性・蓄積性・継続性の微小外的要因の全てをも亜急性とするならば、状態として陳旧性及び慢性傾向にあるものも、その殆どが療養費支給対象になり得る取扱いが可能となるものです。厚労省保険局医療課長通知で定めのある留意事項において「亜急性期」となっていれば受傷後の時間経過による定義付けもできましょうが、「期」の文字がないことからやはり時間経過のみをもって決められるものではなく、ここではあくまで“発生機序により急性か亜急性かを判断すべきもの”であると当方は主張します。このことから、柔道整復療養費にかかる亜急性の負傷定義なり基準が必ずしも明確ではない現状では、単純且つ一律の取扱いではなく、医学用語辞典に記載のあるとおり“急性と慢性の中間に位置する状態”に当たるかどうか、個別具体的な患者の“症状により判断”していくことが求められるものであると考えます。
現行の厚生労働省保険局医療課長通知では、冒頭でも触れましたように、「亜急性の外傷性の負傷」は明快に認められているうえ、介達外力による負傷をも保険適用として差し支えないとなっていることを強調しておきたいのです。
次に、参考までに(社)全国柔道整復学校協会の監修で、実際に養成施設で現在も教科書として使用されている「柔道整復学理論編」の亜急性損傷をそのまま転記しますので、参考にしてください。これにより、100を超える柔道整復師の養成施設の専門学校等で講義・授業が展開されているのです。
亜急性(蓄積性あるいは反復性)
反復あるいは持続される力によって、はっきりとした原因が自覚できないにも関わらず損傷が発生する。このなかには、臨床症状が突然発生するものと、徐々に出現してくるものがある。前者は、先に述べた荷重不均衡状態、あるいは静力学的機能不全の状態下で損傷される場合が多く、組織損傷が拡大していくなかで、外力として認知できない場合あるいは軽微な外力で突然発生したかのように機能不全に陥る。後者は、静力学的機能不全の状態であることが多く、症状は次のような経過をたどることがある。
まず疲労感を覚えやすくなることで、身体に何か異常があることに気づくが、当初はそれを強く感じない。経過とともに疲労するのが早くなり、また安静によっても容易に回復しなくなることで、それを損傷と認識するようになる。次いで、この疲労状態は疼痛となって現れ、さらに症状が強くなると、局所の腫脹、発赤などが現れたりする。
亜急性損傷は、以下に示すような分類がなされる。
(1)使いすぎOVERUSE(2)使い方の間違いMISUSE(3)不使用後の急な負荷DISUSE  ―出典 柔道整復学・理論編 4損傷時に加わる力 18頁―
これらの養成施設で教えられている柔道整復師の業務範囲及び柔道整復術並びに「亜急性損傷」の定義から言えることは、患者自身の自家筋力の動作に起因する機械的損傷は柔道整復師の業務範囲であって、ここでいう自家筋力とは課長通知で示された柔道整復施術の療養費として認められる「介達外力」のうちの具体的例示であり、これにより発生した負傷は当然ながら療養費の支給対象であります。これら「自家筋力による損傷」、「介達外力による負傷」が柔道整復師の施術範囲として授業で教えられ、それと正に整合性がある厚労省の療養費支給基準であって、課長通知により留意事項として定められたとおり、療養費の支給対象であることを貴健保組合は理解できないということでしょうか。理解できないというのであれば、当方役職員等(大学や専門学校の学長・理事長、厚生労働省の元担当官、整形外科医師、弁護士)がご説明に参ります。
柔道整復施術を理解していない一部の健保組合の保険者の中には、事務職員が一般的な常識として認識している捻挫の概念として、例えば関節においてその関節可動域を超える外力が働くことにより、当該関節がその外力に耐えられない場合に発生するものに限局して考えているのではないでしょうか。すなわち発生原因が明解に存在するものということでありましょう。このことは貴健保組合の当該書面にも見受けられるものと思われます。
しかしながら、それ以外にも、大きく負傷部位にダメージを一時に与えなくとも、微々たる外力程度であっても、長期にわたり反復・継続・蓄積する外力要因により負傷することがあるのです。また、自家の身体を構成する筋力に起因する力で損傷する場合もあることはすでに述べましたが、患者さん自らが何らの外傷性の認識を持たずとも負傷することは臨床の現場ではあるのです。柔道整復施術においては、これを「亜急性による負傷」と定義していることは、学校で使用されている教科書内容から読み取れるものです(既出)。
この場合、発赤・熱感・疼痛・機能障害・腫脹など(捻挫症候の5大特徴)が患部に限局的に見られた場合、患者の主訴も参考にしながら施術を担当した柔道整復師が判断することとなります。患者が疼痛等を訴え、結果として柔道整復師が治療の必要性ありと判断したからこそ療養費支給申請書を提出したのです。そうすると、貴健保組合書面に見られる記載内容は不当であって、医療課長通知の運用上誤りであると言えます。医療課長通知の留意事項でいう亜急性及び介達外力に起因するものまで、療養費の支給対象になる旨記載されていることを理解してから保険給付決定事務を行っていただきたいです。
保険者である貴健保組合は、課長通知で療養費の支給対象とされた亜急性の外傷性の負傷と介達外力による負傷を十分理解しなければなりません。

②仮に明確な発生機序がなくても外傷性の負傷は医科学的にも発生することについて
亜急性損傷を発症する場合、その負傷の発生の瞬間を特定できないことは往々にしてあります。反復・継続・蓄積した微々たる外力により筋骨格系、結合組織系、関節の軟部組織等を損傷した場合や、関節の使い過ぎ、誤った関節運動の結果としての損傷や、普段あまり使用しない筋・腱に対し急激な負荷を加えてしまった場合などは負傷することがよくあり、このときは特段、明確な負傷原因など認識されないときがよくあります。
これらを包含して保険請求の対象とすることを「亜急性」として許容されたものということができると考えているところです。

3 寝違え・スジ違いは保険適用となることについて
寝違えは私ども柔道整復師の見立てでは明らかに頸部捻挫ですから、療養費の支給対象となるものと考えます。貴健保組合の書面によれば「寝違え」についても保険適用には否定的見解を述べられていますが、当方の柔道整復師の「寝違え」に係る施術にあたっての基本的考え方を述べます。
これは既出の養成所の学校の教科書にもきちんと掲載されていることです。頸部捻挫の保険請求にあたって、柔道整復師が負傷原因欄や摘要欄等における記載として「寝違え」と書いた場合に、保険適用外とされる一部保険者の対応は、受領委任の取扱規程上問題があるものと考えます。
寝違えとは、頸部捻挫のひとつの態様であり、急性疼痛に頸椎や肩甲骨の運動性が制限された状態をいいます。頸部はそもそも可動域が大きく、その支持組織が相対的に弱い為に頸部捻挫を起こし易いものです。また、頸部捻挫により頸部をはじめ、肩部、背部あるいは事例によっては上肢にいたるまで疼痛やシビレ感などを伴うことが少なくないので注意を要する負傷であるといえます。
寝違えの具体的な発生機序につきましては、急性又は亜急性の外傷性の発生機序として位置づけられ、就寝中などにおいて、大部分は長時間の不自然な姿勢で寝ていたり、睡眠中に不用意に首をひねったり、また、このようなときに肩甲骨を動かしたりしたときに起こる一過性の筋痛であります。
頸椎の退行性変化を基盤として起こる場合や炎症性の疼痛による場合もあります。
寝違えの一般的な症状としては、頸椎の運動制限はあらゆる方向にみられますが、とくに捻転や側屈が制限されることが多い実態にあります。疼痛は僧坊筋、菱形筋、胸鎖乳突筋、肩甲上神経部などにみられ、これらの圧痛部に小指頭大のしこりを触れることもあります。さらに頸部から両側肩甲間部にまで疼痛が放散することも少なくありません。
柔道整復師が行う施術としましては、主に圧痛部位を冷やしたり、逆に温熱を加え手技療法や理学的療法、物理療法を組み合わせたりして治療を行うこととなります。
また、必要に応じて牽引療法や軽い頸部・肩甲帯の運動指導も有効なことが多いことで知られるものです。
柔道整復師の治療する得意分野の一つとして軟部組織損傷の頸部捻挫があることに鑑みれば、寝違えも柔道整復師の施術の適応症と考えます。頸部軟部損傷においては、四肢の軟部損傷とは異なり、脳を支える重要な神経や血管の径路であることから機能的だけでなく、筋靭帯の損傷の腫脹疼痛、拘縮、外傷性炎症等が二次的の圧迫や刺激となりまして、結果的に自律神経の失調異常や頭部、上肢部の種々の症候群を惹起する場合もあります。柔道整復師としては特にこの点に留意して施術に努めているのが実態です。
ここではご説明を省略いたしますが、スジ違いも寝違えと同様な医科学的論拠に基づき説明できます。
以上のことから、患者さんがいう「寝違え・スジ違い」という症状に対する柔道整復師が行う施術行為は、急性又は亜急性の外傷性の負傷であるものと考えられることから、療養費の支給要件を満たしているものといえるのではないでしょうか。そうでないならば、明確な反論をお願いいたします。

4 いわゆるギックリ腰も保険適用となることについて
ギックリ腰とは急に腰を捻ったり、重いものを持ち上げようとしたときなどに発症するだけでなく、洗顔や歯磨きのときなど軽く前かがみになったときなどにも発症してしまう「急性の腰部(腰椎)捻挫」を指します。痛みのために腰部の運動が制限され、また体を動かすと腰痛が増強し、痛みが激しい場合は起立歩行が困難なこともあります。その本体となる疾患は多々ありますが、一般的には腰筋の部分的挫傷、急性の椎間関節炎あるいは腰椎捻挫(解剖学的所見では腰椎椎間板損傷)であることが多いものです。いずれも柔道整復施術の適応症であることが明らかです。また、腰椎棘間靭帯の断裂の場合も見受けられます。スポーツ外傷と並んで、当然のことながら“柔道整復師の施術の得意分野”であります。
当方が強調して述べておきたいことは、患者さんからの回答のみをもって、即、「療養費の支給対象外」と結論付けるのは早計であり、熱感・発赤・機能障害・腫脹及び疼痛の症状を含めて、何より施術者である柔道整復師の見立てや判断を参考にすべきであるということです。実際に施術を行った柔道整復師には何らの確認もせず、単に患者さんの言い分のみをもって保険給付の可否を判断するのは誤りではないでしょうか。
そうすると、患者さんが単に「寝違え、スジ違い、ぎっくり腰であった等」と回答したことのみをもって、これらを狙い撃ちにして即、不適正な請求と判断されることは不当・失当です。
 ましてや本件は、柔道整復師に対する不支給決定通知のご案内書面に添付されている書面です。一般的に保険者が行う保健事業の一環としての患者さんへの受診適正化方策の取組みではなく、施術を担当した柔道整復師に対する書面であることを考えますと国家資格者として国から免許を受けた施術者に対する書面としましては、些か配慮に欠けた失礼な記載内容であるようにも見受けられます。
以 上

※亜急性の負傷については、国が明確な通知を発出しない限り、保険者と施術者間での不毛な議論は収束しない。柔道整復師は、寝違えやスジ違い、ぎっくり腰は当然保険適用として請求する。これを認めないというのであれば、なぜ認めないのかを明らかにしてもらいたい。保険適用になることの大まかなスタンスは、私の解説で理解できるはずである。
by ueda-takayuki | 2015-12-25 13:55

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