全国健康保険協会都道府県支部長 都道府県国民健康保険団体連合会理事長 全国健康保険協会柔道整復療養費 審査委員会委員長 都道府県国民健康保険団体連合会 柔道整復療養費審査会委員長 公益社団法人 全国柔整鍼灸協会 日本個人契約柔整師連盟 代表理事 岸 野 雅 方 ( 公 印 省 略 ) 柔道整復療養費審査会の権限強化は法的位置付けがなく無効であり当該審査会に調査権等が認められないことについて はじめに 私どもは柔道整復師会員数4,000名を超える公益社団法人 全国柔整鍼灸協会(以下、「公益社団全柔協」という。)と、公益社団全柔協と志を一にする個人契約の柔道整復師団体18団体(連盟会員総数:8,156人)で構成される施術者団体です。 さて、平成29年9月4日付で厚生労働省より柔整療養費に関する一部改正通知が発出され、本年10月1日より実施されることになりましたが、審査委員会の設置及び指導監査については、その記載内容に疑義があります。 当該通知の論拠の元となる、平成28年3月29日の柔道整復療養費検討専門委員会で「柔道整復の施術に係る療養費に関する現状と課題」として、審査委員会の委員の構成や審査基準に問題があるとされてきましたが、そういったものが改善されないまま、保険者や審査会の権限だけが強化されるというのは、不正請求防止という大義名分があったとしても柔道整復施術業務を実際に行う施術者側にしてみれば「保険者側の一方的な不当な締め付け」ということになりはしないでしょうか。 このあたりのことを十分議論しないで、問題点を積み残したまま、単に通知の一部を書き換えたり、追加するだけで「ことが完了した」というのはあまりにも短絡的過ぎないものと憂慮しているところです。 このことから、下記にあるとおり当方の審査会に関する問題点を9点にわたり整理して申し述べます。 記 第1 社保審席上での施術者側意見は一部の者の見解に過ぎない 柔道整復師から見れば、適正化の名のもとに単に療養費を圧縮・削減する方策に固執した議論がそのまま具現化された通知発出であり、柔整審査会の設置及び指導監査についての一部改正については、柔道整復療養費検討専門委員会で提示された改正案等がほぼそのまま通知となっていますが、ことに柔整審査会の権限強化については、審査会の構成や審査基準を整備せず、単に通知による文言変更で適正化ができるというのは妄想に過ぎません。 患者満足度に着目すれば、柔道整復施術による治療効果により患者自身が健康回復を自覚することで生まれる認識、すなわち健康とは他人任せにするのではなく、自らの「自然治癒力」を増進することでなし得るということに気付かされるのです。 第2 調査権限は保険者固有のものであり審査会に移譲することはできない 柔整審査会における審査の結果、保険者に対して審査結果を附箋に明記して報告するところまでが柔整審査会の権限であって、報告を受けて患者に対する調査や柔道整復師に対する質問を行うのはあくまで保険者権限です。保険者は、これらの保険者権限を柔整審査会に持たせることはできないのです。 この一部改正通知を誤解して、柔整審査会がまるで捜査権限を有する「独立した行政機関」であるかのごとく権限を与えられることは健康保険法上認められません。 第3 柔整審査会は何らの法令に基づかない強制力のない事務処理の取扱いであること 柔道整復師の療養費の取扱いは「受領委任の取扱い」であり、医師と違い法令に基くものではないことから制度と呼べるものでなく、単に保険の「事務処理の取扱い」に過ぎません。このことから、純粋に審査以外の行為に係る権限を審査会に付託することは明らかに医療保険各法により違法です。 また、調査権に関しては、保険者と患者の関係は「権力関係」にあるため、保険者に於いては患者に対する調査権を保有します。これに対し、保険者と柔道整復師との関係はあくまで「対等」であることから、保険者は柔道整復師に対して調査する権限はありません。単に受領委任の取扱規程による契約上の権利として「質問あるいは照会することができる」に過ぎないのです。 このことから、当然のことですが施術録(カルテ)の提出命令もできないのです。 現行通知で運用されている「指導監査要綱」は、何らの法律的縛りもありません。極論すれば、今回の一部改正通知で示された審査委員会の設置及び指導監査の一部改正など、行政庁からの“お手紙”程度のもので、行政指針ではあるもののけっして“制度”ではなく、単に「事務取扱」に過ぎないのです。 そうすると、柔整審査会に調査権を含めて強制的かつ強力な権限を持たせることは、健康保険法等の医療保険法各法における「法令上」に何らの根拠もなく、法令的な権限を有さない一般組織体に「根拠のない権限」を与えることになり、明らかに違法であると言えるのです。 受領委任の取扱規程上、支給の決定権限を有するのはあくまで保険者であり、柔整審査会には保険者への報告義務はあっても、支給決定権限はないのです。 今流行りの「外部委託点検業者」も同様です。健康保険法等の医療保険各法において何らの法令上の設置根拠すらないにもかかわらず、柔整審査会が保険者機能の一部を代替してその権能を保有することは許されないのです。 そういう意味で、9月4日付けの今般の通知は、健康保険法についての原理原則の根本を忙殺してしまった「検討専門委員会の愚策の実現化」という意味で、全く評価に値しないものです。そもそもこれらは健康保険法の運用上「無効」であることが明らかです。 第4 施術録を柔整審査会に提示することは法令上許されない 施術録(カルテ)は受領委任の取扱い上、必ず作成しなければなりませんが、柔整審査会が自由に閲覧や提示、また、療養費支給申請書にそのコピーの添付を求めることなど許されないことです。 柔整審査会は「保険者審査会」です。審査委員の委嘱は保険者が行い、審査料の実弁費も保険者が支給します。よって、「公的審査会」というのは正確さに欠け、正しくは「保険者審査会」というのです。保険者に依頼された三者構成で審査を実施していることは、保険者決定の権能を審査会が有していないことから保険者が被保険者に確認を求めることはできても、柔道整復師にはできないことはすでに述べたところです。法令と通知は異なることを強調しておきます。通知は命令ではありません。今回の通知も行政部局や保険者を統括する部局に対し発出・通知されたものであり、各柔道整復師団体や個人の柔道整復師に発出されたものではありません。 第5 「協定」、「契約」2つの論拠の不当性と非合理性について 受領委任の取扱いは公益社団法人の協定と個人柔道整復師の受領委任の取扱規程に基づく契約により、また、柔道整復師の審査会もこれに存立の論拠があります(第5章 柔整審査会)。 今般の通知では、平成11年10月20日付けで現行運用が整理され実施されてきた「社団協定」と「個人契約」の相違点に特段着目せずに、ただ単に従来まで社団法人の協定とされてきた協定の改正ということで「社団法人」とされてきたところを「公益社団法人」とされた程度です。しかしながら、当方も公益社団法人であるにもかかわらずこの協定の対象外とされて協定の締結を認められずに個人契約扱いに甘んじざるを得ず、一方、従来までの社団法人のうち、公益社団法人には移行せず、未だに一般社団法人である山口県柔道整復師会と徳島県柔道整復師会はこの「協定」の適用を受けるという不合理が判明しています。 実際に公益社団と協定を結ぶべきところを、このプロセスを省略して文字だけ訂正し読み替えればよいということではありません。 いつ協定を締結したのですか。第6 2つの運用通知の統一の必要性 ―契約一本で― 受領委任の取扱いが昭和11年の戦前に始まり、昭和63年の個人契約への全面的な解禁となった歴史的沿革を当方も理解しています。そのうえで、現行の取扱いが公益社団法人の「協定」と個人柔整師の「契約」に分離していることは意味のないことであり、正当な取扱いとしては是非とも「契約」一本に統一すべきです。 新たな協定を締結しないまま、単に社団法人となっていた箇所を公益社団法人と書き換えただけの実態の伴わない通知です。しかも、第5で触れたとおり、未だに2県は一般社団法人のままなのです。 地方厚生局長を(甲)、都道府県知事を(乙)、都道府県柔道整復師会長を(丙)とする「三者協定」となっており、これに基づき、丙の会員である柔道整復師に対して受領委任の取扱いを行わせるが、いずれも(丙)を経由した取扱いで、確約書の管理も(丙)が行うなど、実質的には甲乙丙丁契約であり、別添2の受領委任契約を行う個人契約柔道整復師との契約形態とは大きな隔たりがあります。だからこそ繰り返して申し述べますが、協定も契約も共通化して一本化すべきなのです。 第7 協定が独占禁止法に抵触することについて このまま公益社団の「協定」を存続させると、 ① 協定は独占禁止法に抵触する恐れがきわめて高いこと ② 柔整審査会の権限の運用上、不当性について公正取引委員会に対して調査をお願いする必要性があること | について言及します。 公益社団の協定と個人柔整師の契約には、柔道整復師の意見を反映させる施術者委員の委嘱や協定団体のみに円滑に協議すること以外は相違点がありません。 しかしながら、公益社団法人は「協定」が個人柔整師の「契約」に比し、優位で優れたものと協調しているようです。 全柔道整復師に占める公益社団法人の割合が3割程度に比し、7割にも拡大している個人柔整師の契約に一本化するのが時代の流れであり正当な考えです。 寧ろ、協定のなかには「公益社団法人都道府県柔道整復師会の協力を求め円滑な実施に努めること」とあり、あたかも当該団体が全柔道整復師団体組織を代表しているかの如く捉えられていますが、先にも触れたようにわずか3割程度の組織率で全柔整師の代表を担うことなど不可能です。このような通知は特定団体にのみ便宜を図り業界の権限を行政が与えていると見做されることから、独占禁止法に抵触します。 第8 審査会の権限の運用上、不当性について公正取引委員会に対して調査をお願いする必要性があることについて 柔整審査会はようやく、都道府県毎に協会けんぽの支部長が委員を委嘱する被用者保険の審査会と国民健康保険団体連合会理事長が委員を委嘱する国保審査会が、すべてに設置されたところです。 しかしながら、その委員の委嘱にあたっては問題だらけです。具体的には ① 半数以上の審査会において「審査基準」を定めていないこと 施術担当者を代表する委員が公益社団法人都道府県柔道整復師会の会員にほぼ独占 ② されていること ③ 学識経験者の委員が整形外科医に独占され、その者が審査委員長になることから、利益相反の利害関係者が委員の重要ポストに就任している実態があること などから、柔整審査会の現在の運用方策が、全柔整師の7割である個人柔道整復師からの療養費の審査にあたって不公平・不公正な取扱いになっている現実を憂慮します。 これらの不当性が独占禁止法に抵触することは既出第7で説明済みですが、これを公にするため、公正取引委員会へ全国の柔整審査会の実態についての調査依頼とします。 あわせて、公益社団法人日本柔道整復師会が自由民主党のみに政治献金していることが、本件にどのように関わっているのかについても明らかにしていただけるように政治的に取組んで参ります。 第9 会員の意思決定を総会で求めず団体の構成員が何ら了解していない通知の発出は認められない 通知で示された別添1関係は、協定書における「社団法人」⇒「公益社団法人」への技術的読み替え措置に終始していますが、そもそも社団法人の見直しにより、従来までの社団法人と新たな公益社団法人とは明らかに別組織です。そうすると、新協定書の決定にあたっては、当然のことながら各都道府県におかれる公益社団法人の柔道整復師会総会において承認議決を要する重大案件です。 当該通知が厚生労働省から発出されても、都道府県柔道整復師会ではこのことに全く関与せず、協定書の一部改正にあたって総会への決議も為されないまま、平成29年10月1日から適用することは認められないものと考えます。 これでは、国である厚生労働省が自分勝手に協定書を強要していることになるからです。 少なくとも、厚生労働省保険局の新協定としての「公益社団法人都道府県柔道整復師会」としての総会における決議の決定がないままの実施は無効です。 おわりに 今回発出された柔整平成29年9月4日通知により一部改正の内容は不正請求防止が 改正の大義名分であり、客観的な証拠がある不正又は不当な請求は、いきなり監査になるなど、指導・監査が強化され、また、保険者や審査会も権限強化が図られ、重点項目にいわゆる「部位転がし」が追加され、施術録の整備保管のみならず、請求内容に不正又は著しい不当がある場合は、保険者等又は審査会から領収書の発行履歴や来院簿その他通院の履歴が分かる資料の提示及び閲覧を求めることができるとされています。 しかしながら、いわゆる「調査権限」は行政庁にのみ許容されるべきものであることから、柔整審査会にはその権限は与えられないのです。柔整審査会に調査権限を持たせるには、あくまで健康保険法等における「法令上の規定」を要するのが当たり前であり、柔整審査会に調査権限などについて、これら運用通知では認められないのです。 結果として施術録(カルテ)の自由閲覧や申請書へのコピーの添付を求めるような運用を招く危険性がきわめて高い当該通知を受け入れることはできません。 以 上 【 お 問 合 せ 先 】 公益社団法人 全国柔整鍼灸協会 理事 上 田 孝 之(うえだ たかゆき) 06-6315-6606 FAX:06-6315-6607 上田たかゆき 後援会 <kouenkai@ueda-takayuki.sakura.ne.jp> | |