自賠責保険の国側監督庁である国土交通省と金融庁のご担当部局に照会文書を発出した

交通事故に係る自賠責保険の実際の運用上において、組合員から多くのご要望がある。特に、自由診療とは言え、実質上は損保会社の目安料金に縛られ、自由診療など形骸化していて一切認められない。このことについて、国土交通省自動車局の自動車保障担当の官房参事官と、金融庁監督局保険課長あてに、自賠責の取扱いにおける柔道整復施術の運用に関する疑義照会を行うべく、書面を発出した。文書を中央官庁に送付しても、ただちに回答を得ることは困難であることから、今後具体的にどのように取組むのかを検討して参りたい。2省庁に発出した書面を参考までに掲載する。
 なお、金融庁に発出した書面の論理構成は国土交通省宛てに発出した書面とほぼ同様なので、ここでは割愛し、国土交通省自動車局官房参事官宛ての書面のみ掲載することとした。
全柔協専発0507第1号
平成27年 5月 7日
国土交通省自動車局官房参事官(自動車保障)
吉 田 耕 一 郎 様
全国柔整鍼灸協同組合
専務理事 上 田 孝 之

自動車損害賠償責任保険の取扱いにおける柔道整復
施術の運用に関する疑義について( 照 会 )

平素は自動車損害賠償責任保険の取扱いにつきまして格段のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
私ども全国柔整鍼灸協同組合(以下「当方」という。)は、整骨院を経営する柔道整復師の施術者団体として全国に3,800名を超える会員を有する施術者団体です。
さて、近年、当方の組合員が自動車賠償責任保険(以下、「自賠責保険」という。)の適用として柔道整復師による治療行為としての施術(以下、「施術」という。)を行うにあたり、損保会社のご担当との間で、また、損保会社自体との間でも無用のトラブルが多発しております。中には訴訟事案に発展する場合も多く見受けられ、何らかの対応策を業界団体として構築しなければならないと考えています。
今後、全国展開をされている主要な損保会社5社の本社ご担当部局と議論していくにあたり、先ずは、自賠責保険に係る指導担当部局としての国側の貴省のお考えをお伺いしたうえで、今後の各民間損保会社への対応策を柔道整復業界団体として検討して参る所存でございます。
つきましては、当方からの下記疑義照会につきまして、書面において簡便に確認させていただきますので、ご回答方、宜しくお願いいたします。
なお、当方といたしましては、書面による回答にこだわっておりませんので、書面回答が困難な場合は、ご担当部局様と直接面談をさせていただきますよう希望いたします。この場合は、当方から役職員が赴きますので、面談予約方のご配慮をお願いいたします。

                  記

1.被害者の選択の自由が奪われていることについて
 最近、被害者(患者)が柔道整復師での施術を申し出た際に、損保会社から「医科での治療しか認めない」と言われるケースが増えています。
 自賠責保険において、柔道整復師が行う施術は法的に認められており、理由も無く保険医療機関への誘導を行うことは、被害者が有する「医療選択の自由」を奪うことになるのが明らかです。
このことについて、貴省ご担当部局のお考えを明示してください。

2.自賠責は自由診療であるにもかかわらず実質「目安料金」で運用されている実態にあることについて
柔道整復師の施術に当たっては、窓口で健康保険証等の医療保険の適用を患者が希望し、患者の負傷が外傷性であれば健康保険等の施術となることから、厚生労働省保険局長及び同局医療課長から発出されている受領委任の取扱規程等による算定基準に基づき保険適用します。しかし、これは労働者災害補償保険(以下、「労災保険」という。)で給付される業務災害と通勤災害、並びに第三者行為による負傷につきましては対象外とされていることから、交通事故による負傷が明らかであるならば、厚労省の通知で示された算定基準ではなく、あくまで自由診療との位置付けで施術を行ってきたところです。
しかしながら、各損保会社は労災保険の1.2倍、1.5倍、あるいは2倍の範囲で上限を定めたうえで、「当社の目安料金」として、実質損保会社による支給すべき料金を事前に調製し基準を設けております。
自由診療における施術料金は、あくまで「必要かつ妥当な実費」であることは論を俟ちませんが、これは社会通念上の適正な施術料金を指すことです。当方としましては、それがなぜ労災保険の単価の2倍を限度として運用されるのか分からないのです。労災保険の単価がまるで「公定価格」として認知されたように解釈されるならば、このことについて監督官庁としての意思表示をしなければ、損保会社と柔道整復師との間で生じる疑義は収拾がつかないのではないかと憂慮しています。
もちろん、自由診療といえども常識ある一定の範囲内に施術料金を止める必要があるのは当然のことと理解しています。しかし、一律かつ定額の定めによる目安料金なるものとしての料金設定を、地域的な要素を無視して、全国的に統一された金額を損保会社から一方的に強制されることに納得できないということなのです。
このことについて、貴省ご担当部局のお考えを明示してください。

3.損保会社が自由診療回避策として事前に患者に対し「健保の使用」を要請している実態について
上記2でも述べたとおり、交通事故は第三者行為による負傷であることから、本来健康保険の対象とはなりませんが、健康保険の給付決定にあたって、事前に「第三者行為による負傷届」を提出することにより、健康保険の保険者が求償権を行使し得る環境があれば、保険者として交通事故に健康保険を使わせているのが実態です。これを損保会社は都合よく解釈して取扱い、交通事故の被害者に対し、「健保を使って治療を受けてください」との要請を行っています。  
このことについて、貴省ご担当部局のお考えを明示してください。

4.健康保険の算定基準を自由診療に強要している実態について
自由診療としての施術を行うにあたっては、既出の必要かつ妥当な実費であることは当然ですが、部位数の限度を一方的に求められることは不当と考えます。事実、自由診療にもかかわらず、「3部位しか認めないので残りの負傷部分はまるめたということで部位数を削減してほしい」という要請を受けることが頻繁にあります。
これは健保の取扱いが「4部位目以降に係る費用については3部位目までの料金に含まれる」として、4部位以降は支給されていない取扱いに準じたものと思われます。
また、健保で使用されている近接部位の算定方法を持ち出し「近接部位と思われるので、自賠責としての支給は困難です」との連絡を受ける施術者も多いです。自由診療に対し、なぜ健康保険の対応を強要し、場合によっては長期施術に係る一方的な費用の打ち切りなど、健保の算定基準にないものまでをも要求されるのか、当方といたしましては理解できないところです。
このことについて、貴省ご担当部局の考えをご教示願います。

5.労災保険に存しない逓減さえ強要される実態について
上記4と基本的考えは同じなのでしょうが、健保で行われている3部位目に係る多部位逓減(40%カット)や5か月を超える長期に係る長期逓減(20%カット)を参考にしながら、時としてこれをさらに上回る厳しい逓減を適用させています。仮に損保会社が労災保険の料金を公定価格と位置付けてこれに倣っているのであれば、労災保険には存しない「逓減」という目減り策を、自賠責保険に適用するのは納得できません。
これでは、健保と労災の保険の取扱いにおける自賠責費用をより低額に抑えるための方策として、損保会社にとって費用の支払いをより低めに抑制するための「イイとこ採り」です。この点を考えても公平かつ公正な料金設定とは言えないものと思料します。
このことについて、貴省ご担当部局のご意見をお願いします。

6.損保会社からの一方的な主張に困惑している当方組合員の実態について
ある日、突然に損保会社のご担当様より「我が社の目安料金での施術料金の算定に基づき、これに従ってほしい」旨の連絡があり、施術料金の算定を社の目安表に従うように強要されますが、そもそも損保会社が独自に設けている目安料金には何らの強制力もありません。にもかかわらず、自由診療を全面的に否定されたうえで、自社の基準に従うことを強要する取組みは不当・失当であります。また、これに従わない柔道整復師には、「柔道整復師はぼったくり」であるとか、「整骨院は取り放題」等々の誹謗中傷する発言も一部には見受けられ、実際に訴訟問題にまで発展してしまう現況にあります。
このことについて、貴省ご担当部局の指導が可能であるのかをお伺いします。

7.損保会社の「目安料金」は結果として柔道整復師の施術料金の抑制に直結することについて
 当方といたしましては、既出2でも触れたように、自由料金としての本質を重要視いたします。労災保険の料金が基準となるにしても、その労災料金は自由診療の動向をもって決定されるものではないでしょうか。すなわち、労災保険の料金は自由診療の料金額を参考に決められるものと認識しています。
本来、自由診療に係る施術料金というものは、地域の特性や社会的な素因で変更されるものです。にもかかわらず、損保会社の固定的要素が強い目安料金での算定が一般化したならば、労災保険に係る施術料金自体も固定化してしまうおそれがあります。
寧ろ、実際の料金改定においては、健康保険の算定料金を基準にして労災保険の施術料金が決定されている現状からすれば、下げ止まりの効かない健康保険の算定料金が労災保険にスライドされ、それが損保会社の上限の目安料金に反映されるシステムこそ、根本的に見直す必要があるのではないかと考えています。
 このように、「はじめに目安料金ありき」で運用されている現状につきまして、貴省のご見解を明らかにしてください。
                                     以 上

by ueda-takayuki | 2015-05-07 14:13

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