自賠責保険における鍼灸治療に思う

先週の土曜日(平成26年7月19日)に開催された保険講習会の終了後のご質問で、鍼灸の自賠責保険が厳しいことを3名の会員からお話をいただきましたので、ここに載せます。
自動車損害賠償責任保険、略称自賠責保険による鍼灸治療が通りづらくなってきています。このことはみなさんもお気付きのことと思います。本当に損保会社の対応が厳しくなっている実態があります。交通事故により、例えばむち打ち症、腰痛症、背中の痛み、頸椎症などのため治療を要する場合、鍼灸治療は当然のことながら自賠責保険の対象になりますが、損保会社はなぜか柔道整復師の接骨院には理解を示すも、鍼灸治療の交通事故をことさら認めたがらないです。強制の傷害保険金上限額が120万円までなので、他に医科本体分に使われる保険金を考えると、内訳的にどうしても120万円以内に抑えたい損保会社の対応がありますね。自賠責保険を請求した人の9割は任意保険にも加入しています。任意保険を扱う損保会社が自賠責保険と一括して事故調査をし、自賠責保険と任意保険の合計額を患者側に支払います。そのうえで、いったん会社が立替えた自賠責の支払分を自賠責保険に請求する仕組みです。そうすると、損保会社は、患者側に支払う保険金が自賠責の限度額120万円を超えなければ、会社の懐が痛まない訳です。
今や、鍼灸治療を受けさせずに整形外科や接骨院への患者誘導を露骨に求めてきます。損保会社から「医者の文書(指示書)」をもらってきてくれ、「整骨院や接骨院に代えてくれ」と患者さんが会社から言われますと、鍼灸治療を開始しづらいですし、鍼灸師も治療しづらいですよね。また、保険会社毎に「目安料金」を設定しており、これらは概ね「労災基準額」となっています。このことから保険会社の目安料金すなわち労災基準額での料金算出であれば金額的には大きなトラブルにならないことが多いです。
そもそも鍼灸治療を受けさせたくない理由は、鍼灸治療のイメージが慢性疾患を連想させることから治療が長期化することを想像してしまうからです。120万円を超えて任意保険の範疇になれば、損保会社のお金の持ち出しになることはすでに述べましたが、このようなことで厳しい対応をされてしまいます。鍼灸治療を受けることについて損保会社から否定され「鍼灸は支払われない」みたいな今の取組みは、患者さんが治療を自由に選択できる「医療を受ける権利」を著しく阻害するものであることから認められません。しかし、このことを指導官庁である国土交通省や金融庁にお願いしても何も対応してくれないのが現状です。損保会社は言葉巧みに医科の整形外科の治療を受けるよう患者誘導してきますよ。例えば「整形なら慰謝料が日額8,400円も出ますよ。鍼灸は日額4,200円だから、あなた損ですよ!」ってな具合です。鍼灸は日額の治療費が5,000円程度だから、ちょっと長期化すればすぐに120万円を超えてしまいます。損保会社はどうしても120万円以内に押さえ込みたいのですから、いろいろ難癖をつけてくるのです。むしろ120万円を超えて任意保険の対象になれば、逆にあまりうるさく言わないところもあるようですが、基本的に損保会社が強制保険の枠を超えることを嫌がっているのが分かりましたね。
最近は接骨院での柔道整復師の治療に対しても支払いを断る損保会社が続出しています。平成26年3月22日付けの朝日新聞朝刊1面記事にも載っていましたとおり、接骨院の自賠責請求急増をことさら問題視する風潮があり、接骨院はこれから交通事故を扱うことが厳しくなること必至です。そんな環境下で鍼灸の交通事故患者を自賠責で診て差し上げることは大変です。
保険金請求にあたり、医師の同意書や診断書を添付する必要はないものの、医師が鍼灸治療に関するコメントを記載した「指示書」の提出を強く求められることが多くなってきました。これさえ応じる必要はないのですが、提出されないとダラダラといつまでたっても保険金がおりないので困ってしまいます。
交通事故に対する鍼灸治療を円滑に進めるための妙案は私にもありませんが、個別の損保会社からの問合せに対して、けっして諦めずに粘り強く説明していくことが求められます。
by ueda-takayuki | 2014-07-22 14:01

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